コラム

【第31回】不整脈Advanced Study 冠静脈洞調律(coronary sinus rhythm)と異型P波

 

 

みんなの心電図

〜非専門医のための読み方〜

 

第31回 不整脈Advanced Study 冠静脈洞調律(coronary sinus rhythm)と異型P波

 

 

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世の中の刺激伝導系の講義は往々にして洞結節とP波から始まります.
洞結節とは「右房の右上方に局在するペースメーカー細胞である」.
これは満点の解答です.

 

 

しかし,世の人のペースメーカー細胞が全てそこにあるのかというと実は絶対ではないのです.
生まれながらにペースメーカー細胞を冠静脈洞に宿している人々がいます.
これによる調律を冠静脈洞調律(coronary sinus rhythm)と呼びます.

 

 

心房波は常に右房波も左房波も頭側上向きに伝搬します.
すなわち下方誘導(Ⅱ,Ⅲ,aVF)ではP波が陰転化しています.
こうした異所性調律は注意深く健診心電図を観察することで比較的多く発見されます.

 

冠静脈洞調律はアブレーション手技でカテーテルを入れる専門家にとっては
心内心電図の把握にまつわる重要な事項を含みますが,
日常診療と12誘導心電図の読影をするうえでは
致死的ではなく治療介入点もないので,
基本的には見つけても放置で構いませんし,見逃しても問題はありません.

 

房室結合部付近(心房からみて下部の方)から始まる心房波は
上方へと伝わるので下方誘導で陰転化して見える」というベクトルの考え方として
心房エコーの逆行性P波に通じる部分があり,思考が深まるので1つ紹介と致しました.

 

最重要なメッセージは
洞調律と形が違うP波(=異型P波)は興奮の起点が違う可能性を考える
ということです.これは覚えて下さい.

 

 

P波の源性を推定することは,より様々なベクトルの12誘導の
状況を把握することで詳細な心房内起源の位置が
ある程度推定可能です(下の図参照).

 

ただしこうした詳細な把握はマニアックであるため,
不整脈アブレーション専門家以外は不要な知識かと思います.どうぞ忘れて下さい.

 

第6回の正常心電図のP波の読み方ではⅡ誘導で陽性,
V1誘導で2相性であることを確認するように推奨していました.
12誘導のうちこの2誘導に着目させる理由として
右房波と左房波のコントラストが
際立って観察されるベクトルであることをお示ししました.
さらに実は,先の波形パターンが観察されるということは
右房上方に興奮が局在している(=場所的に洞結節であろう)
という局在推定も裏のメッセージとして含んでいるのでした.

 

 

今回のまとめ
●心臓のペースメーカー細胞を洞結節でなく冠静脈洞にもつ人がいる.

●このような人における調律を「冠静脈洞調律(coronary sinus rhythm)」という.
●冠静脈洞調律では下壁誘導(Ⅱ,Ⅲ,aVF)においてP波が陰転化する.
●洞調律と形が違うP波(=異型P波)は興奮の起点が違う可能性を考える.

 

著者:Dr. ヤッシー
内科医.心電図読影へのあくなき探求心をもち,
循環器非専門医でありながら心電図検定1級を取得.
これまでに得た知識・スキルを臨床現場で役立てることはもちろん,
教育・指導にも熱心.若手医師だけでなく,
多職種から勉強会開催の要望を受けるなど,頼られる存在.

 

 

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–「みんなの心電図」目次–

【第1回】連載のコンセプトと自己紹介
【第2回】初学者はなぜ,心電図を苦手と感じているのか?
【第3回】心電図でわかること,わからないこと
【第4回】近づく電気,離れる電気
【第5回】電極のつけ方と基本波形
【第6回】P波はⅡ誘導とV1誘導を見よ (刺激伝導系その1  心房の伝導)
【第7回】心房から心室へは1本道(刺激伝導系その2 房室結節の伝導)
【第8回】心室壁の高速道路と一般道 (刺激伝導系その3 ヒス-プルキンエ線維の伝導)
【第9回】心室壁はつっかえないように縮んで,伸びる(QRST波形理解の下準備その1)
【第10回】パッチクランプ法でみる細胞1粒の活動電位(QRST波形理解の下準備 その2)
【第11回】QRST波形の成り立ち(刺激伝導系その4 心室の興奮と弛緩)
【第12回】QRS波の胸部誘導でのグラデーションを感じよう
【第13回】心電図を確認する眼の動き
【第14回】冠症候群の診断は合わせ技1本
【第15回】心筋梗塞の心電図の成り立ち (1)T波増高
【第16回】心筋梗塞の心電図の成り立ち (2)ST上昇
【第17回】心筋梗塞の心電図の成り立ち (3)異常Q波
【第18回】心筋梗塞の心電図の成り立ち (4)冠性T波
【第19回】心筋梗塞の心電図は出る順番が大切
【第20回】心内膜下虚血の心電図 ST低下
【第21回】ST変化の鏡面像(Mirror image)
【第22回】冠血流域と誘導の対応関係
【第23回】速読式 心拍推定
【第24回】速読式 QT延長推定と基礎疾患
【第25回】頻脈の読影が心電図では最も難しい
【第26回】頻脈性不整脈の分類 (1)上室性と心室性
【第27回】頻脈性不整脈の分類 (2)上室性頻脈の種類
【第28回】刺激伝導系の整理
【第29回】マクロリエントリー理解の準備(1) 洞調律での2経路の伝導
【第30回】マクロリエントリー理解の準備(2) 心房エコーと逆行性P波
【第31回】不整脈Advanced Study 冠静脈洞調律(coronary sinus rhythm)と異型P波

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