コラム

【第16回】心筋梗塞の心電図の成り立ち (2)ST上昇

 

 

みんなの心電図

〜非専門医のための読み方〜

 

第16回 心筋梗塞の心電図の成り立ち

(2)ST上昇

 

 

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今回は心筋梗塞の心電図変化の1つ,ST上昇を解説します.
このST上昇の理由も膜電位で説明することができます.

 

正常心筋と比べて虚血部では様々なイオンチャネルが
その伝導性に変化をきたします.
代表的なものだけでも電位依存性Kチャネル,
Na/K-ATPポンプ,ATP依存性Kチャネルなど
多くのイオンチャネルが関わりますので,非常に複雑です.

 

そこで,膜電位のバランスを拡張期と収縮期に分けて考え,
大切な結論を覚えましょう.

 

虚血部は正常組織と比べて,
拡張期には「脱分極」傾向,
収縮期には「過分極」傾向にあります.

 

その結果,拡張期は虚血部が

相対的にプラスとなりますので

電流は逃げてゆくことになります.

 

このため,拡張期を反映した心電図の部分
(T波の終わりからQRS波の始まりまで)の

基線は正常よりも低下します.

 

一方で,収縮期には虚血部は
相対的にマイナスになりますので
電流は近づいてくることになり,
収縮期を反映した心電図の部分
(すなわちST部分)は

上昇します.

 

 

 

基線はあくまで相対的な立ち位置にあるので,
これらを統合した時に

ST部分が際立って上昇しているように見えるのです.

 

今回のまとめ
●貫壁性虚血では「ST上昇」が生じる.

●この理由は,虚血部位では拡張期には「脱分極」,
収縮期には「過分極」傾向となるからである.

 

 

著者:Dr. ヤッシー
内科医.心電図読影へのあくなき探求心をもち,
循環器非専門医でありながら心電図検定1級を取得.
これまでに得た知識・スキルを臨床現場で役立てることはもちろん,
教育・指導にも熱心.若手医師だけでなく,
多職種から勉強会開催の要望を受けるなど,頼られる存在.

 

 

→【第17回】心筋梗塞の心電図の成り立ち (3)異常Q波

 

 

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–「みんなの心電図」目次–

【第1回】連載のコンセプトと自己紹介
【第2回】初学者はなぜ,心電図を苦手と感じているのか?
【第3回】心電図でわかること,わからないこと
【第4回】近づく電気,離れる電気
【第5回】電極のつけ方と基本波形
【第6回】P波はⅡ誘導とV1誘導を見よ (刺激伝導系その1  心房の伝導)
【第7回】心房から心室へは1本道(刺激伝導系その2 房室結節の伝導)
【第8回】心室壁の高速道路と一般道 (刺激伝導系その3 ヒス-プルキンエ線維の伝導)
【第9回】心室壁はつっかえないように縮んで,伸びる(QRST波形理解の下準備その1)
【第10回】パッチクランプ法でみる細胞1粒の活動電位(QRST波形理解の下準備 その2)
【第11回】QRST波形の成り立ち(刺激伝導系その4 心室の興奮と弛緩)
【第12回】QRS波の胸部誘導でのグラデーションを感じよう
【第13回】心電図を確認する眼の動き
【第14回】冠症候群の診断は合わせ技1本
【第15回】心筋梗塞の心電図の成り立ち (1)T波増高
【第16回】心筋梗塞の心電図の成り立ち (2)ST上昇
【第17回】心筋梗塞の心電図の成り立ち (3)異常Q波
【第18回】心筋梗塞の心電図の成り立ち (4)冠性T波
【第19回】心筋梗塞の心電図は出る順番が大切
【第20回】心内膜下虚血の心電図 ST低下
【第21回】ST変化の鏡面像(Mirror image)
【第22回】冠血流域と誘導の対応関係
【第23回】速読式 心拍推定
【第24回】速読式 QT延長推定と基礎疾患
【第25回】頻脈の読影が心電図では最も難しい
【第26回】頻脈性不整脈の分類 (1)上室性と心室性
【第27回】頻脈性不整脈の分類 (2)上室性頻脈の種類

 

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