コラム

【第22回】冠血流域と誘導の対応関係

 

 

みんなの心電図

〜非専門医のための読み方〜

 

第22回 冠血流域と誘導の対応関係

 

 

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虚血の心電図読影には,
冠血流領域と誘導をセットで覚えることが大切です.

 

まずは肢誘導を整理することから始めましょう.
高校数学でベクトルは移動させることができると

聞いたのではないでしょうか?

 

Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ,aVR,aVL,aVFの6つある肢誘導を組み替えて,
同じ向きを向いているベクトルごとに整理して,
誘導の意義を整理しましょう.

 

まず,aVFの3誘導は
下向きに向かってくる電流を捉えることを得意とする誘導です.
ベクトルの向きも並べなおすと図のように全部下を向いていますね.
この3つを「下壁誘導」と呼びます.

 

aVLはともに被験者の左側にベクトルが向いています.
この2誘導は高位側壁を反映しています.

 

aVRは前胸部誘導の対側に位置します.
反対側から広い左室内腔をのぞき込む空洞にみえることから
cavity(空洞)leadと呼ばれます.
12誘導と呼びながらも,このcavity leadは
普段評価するタイミングが実はありません
(つまり11誘導しか普段はみなくてよいのです).

 

しかし,左冠動脈主幹部/3枝病変などの
重症虚血がある時だけaVRはST上昇し,
この時だけは注目する必要があります.
なお,こうした重症虚血では前胸部誘導は
広範にST低下するものですから.
aVRのST上昇+前胸部誘導の広範なST低下」は
危険な虚血とパターンで覚えましょう.

 

 

 

次に胸部誘導(V1-V6)を整理しましょう.
以前にV1-V6の読影ではR波増高の
グラデーションに注目することを説明しました(第12回).
V1-V4は前下行枝の灌流域と一致して中隔~左室前壁を反映します.
V5-V6は回旋枝の灌流域と一致して側壁を反映しています.

 

 

 

 

肢誘導は冠流域のセットでみた時に
縦読みで飛び飛びとなっているため,
非常に読みにくいので眼をならす必要があります.

 

もう少しグラデーションが見やすいように
肢誘導を並び替えたキャブレラ配列というものが存在します.
絶対にそちらの方が読影漏れがなくてよいと思いますし,
1948年に提唱され,わざわざ最新の循環器学会の
ガイドラインにも明記してあるのですが,
全国の12誘導心電図の器械は
一向に改善される雰囲気がありません(実に謎です…) .

 

 

一方で,前胸部誘導は順序良く並んでいるために比較的読みやすいです.
最後にどの血管の虚血がどの誘導に反映されるのかをまとめましょう.

 

 

 

今回のまとめ
●肢誘導 Ⅰ,aVL→高位側壁 Ⅱ,Ⅲ,aVF→下壁誘導 aVR→cavity lead:左主幹部,3枝

●前胸部誘導 V1-V4:前下行枝(LAD)→中隔~左室前壁 V5-6:回旋枝(LCX)→側壁

 

 

 

著者:Dr. ヤッシー
内科医.心電図読影へのあくなき探求心をもち,
循環器非専門医でありながら心電図検定1級を取得.
これまでに得た知識・スキルを臨床現場で役立てることはもちろん,
教育・指導にも熱心.若手医師だけでなく,
多職種から勉強会開催の要望を受けるなど,頼られる存在.

 

 

→【第23回】速読式 心拍推定

 

 

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–「みんなの心電図」目次–

【第1回】連載のコンセプトと自己紹介
【第2回】初学者はなぜ,心電図を苦手と感じているのか?
【第3回】心電図でわかること,わからないこと
【第4回】近づく電気,離れる電気
【第5回】電極のつけ方と基本波形
【第6回】P波はⅡ誘導とV1誘導を見よ (刺激伝導系その1  心房の伝導)
【第7回】心房から心室へは1本道(刺激伝導系その2 房室結節の伝導)
【第8回】心室壁の高速道路と一般道 (刺激伝導系その3 ヒス-プルキンエ線維の伝導)
【第9回】心室壁はつっかえないように縮んで,伸びる(QRST波形理解の下準備その1)
【第10回】パッチクランプ法でみる細胞1粒の活動電位(QRST波形理解の下準備 その2)
【第11回】QRST波形の成り立ち(刺激伝導系その4 心室の興奮と弛緩)
【第12回】QRS波の胸部誘導でのグラデーションを感じよう
【第13回】心電図を確認する眼の動き
【第14回】冠症候群の診断は合わせ技1本
【第15回】心筋梗塞の心電図の成り立ち (1)T波増高
【第16回】心筋梗塞の心電図の成り立ち (2)ST上昇
【第17回】心筋梗塞の心電図の成り立ち (3)異常Q波
【第18回】心筋梗塞の心電図の成り立ち (4)冠性T波
【第19回】心筋梗塞の心電図は出る順番が大切
【第20回】心内膜下虚血の心電図 ST低下
【第21回】ST変化の鏡面像(Mirror image)
【第22回】冠血流域と誘導の対応関係
【第23回】速読式 心拍推定
【第24回】速読式 QT延長推定と基礎疾患
【第25回】頻脈の読影が心電図では最も難しい
【第26回】頻脈性不整脈の分類 (1)上室性と心室性
【第27回】頻脈性不整脈の分類 (2)上室性頻脈の種類

 

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