病気がみえるシリーズ
【第28回】刺激伝導系の整理
みんなの心電図
〜非専門医のための読み方〜
第28回 刺激伝導系の整理
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頻脈性不整脈の電気生理学的機序を理解するためにはまず,
正常な刺激伝導系(とそれによるPQRST波の成り立ち)についての理解が必要です.
これらについては一度,第6回~第12回で説明していますが,
ここであらためて復習しておきましょう.
●洞結節~心房
まず,電気は右房の洞結節からはじまります.
心房の興奮はじわじわ細胞間をつたって拡がっていきます.
小さい電流が無数に発生しているわけですが,
心電図解釈としては右房波と左房波に分けて考えるのでしたね(第6回).
●房室結節
次に,房室結節では通常は1本路ですが,健常者でも4人に1人くらいは
ドーナッツ状の2分路(fast pathwayとslow pathway)をもっていて,
これがリエントリー型の不整脈の素地となるのでした.
通常の洞結節からの興奮ではfast pathwayを介した伝導のみが伝わり,
slow pathwayは伝わることができないため,
2経路あっても「心房からの興奮」:「心室へ伝導する興奮」=1:1となり,
1本路の人と変わらないような伝導を起こすのでしたね(第7回).
●ヒス-プルキンエ線維
ヒス-プルキンエ線維は「高速道路」であり,
固有心筋細胞が「一般道」なのでした.
高速道路の伝導障害さえなければ(つまり,「脚ブロック」がなければ),
駆け下りた電流は左右の心室をほぼ同時に興奮させるのでした(第8回).
●心室筋の収縮
心室筋は内膜側から収縮が始まり,外膜側から拡張が始まるのでした.
内膜側と外膜側の活動電位差をトレースすると収縮初期と,
脱分極の終期に2度,内膜側→外膜側へと電流が流れるのでした.
この2度の電流がQRSの波,そしてT波でした.
したがって,QRS波とT波は同側を向くのが原則でした
(この関係が逆転すると陰性T波となるのでした)〔第9回〕.
12誘導のうち胸部誘導(V1-V6)では
中隔からはじまり心尖部,心室自由壁,そして心基部へとダイナミックに連関して
収縮する心室壁のわずかな時間差と電極との位置関係を反映し,
V1誘導でrSパターン,そして対極のV6誘導でqRパターンとなります.
V1-V6の間は少しずつ位置をずらして貼った分グラデーションとして表現されます.
とくに左側にむかうほどR波が徐々にノッポになるように見えますので
これをR波増高と呼ぶのでした(第12回).
以上が刺激伝導系の復習になります.
それでは次回からはいよいよ頻脈性不整脈の機序に関する
電気生理学的な説明を行っていきます.
次回は房室結節のfast pathwayとslow pathwayの詳細についてお話します.
今回のまとめ
●刺激伝導系:洞結節→心房筋→房室結節→ヒス-プルキンエ線維→心室筋
著者:Dr. ヤッシー
内科医.心電図読影へのあくなき探求心をもち,
循環器非専門医でありながら心電図検定1級を取得.
これまでに得た知識・スキルを臨床現場で役立てることはもちろん,
教育・指導にも熱心.若手医師だけでなく,
多職種から勉強会開催の要望を受けるなど,頼られる存在.
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–「みんなの心電図」目次–
【第1回】連載のコンセプトと自己紹介
【第2回】初学者はなぜ,心電図を苦手と感じているのか?
【第3回】心電図でわかること,わからないこと
【第4回】近づく電気,離れる電気
【第5回】電極のつけ方と基本波形
【第6回】P波はⅡ誘導とV1誘導を見よ (刺激伝導系その1 心房の伝導)
【第7回】心房から心室へは1本道(刺激伝導系その2 房室結節の伝導)
【第8回】心室壁の高速道路と一般道 (刺激伝導系その3 ヒス-プルキンエ線維の伝導)
【第9回】心室壁はつっかえないように縮んで,伸びる(QRST波形理解の下準備その1)
【第10回】パッチクランプ法でみる細胞1粒の活動電位(QRST波形理解の下準備 その2)
【第11回】QRST波形の成り立ち(刺激伝導系その4 心室の興奮と弛緩)
【第12回】QRS波の胸部誘導でのグラデーションを感じよう
【第13回】心電図を確認する眼の動き
【第14回】冠症候群の診断は合わせ技1本
【第15回】心筋梗塞の心電図の成り立ち (1)T波増高
【第16回】心筋梗塞の心電図の成り立ち (2)ST上昇
【第17回】心筋梗塞の心電図の成り立ち (3)異常Q波
【第18回】心筋梗塞の心電図の成り立ち (4)冠性T波
【第19回】心筋梗塞の心電図は出る順番が大切
【第20回】心内膜下虚血の心電図 ST低下
【第21回】ST変化の鏡面像(Mirror image)
【第22回】冠血流域と誘導の対応関係
【第23回】速読式 心拍推定
【第24回】速読式 QT延長推定と基礎疾患
【第25回】頻脈の読影が心電図では最も難しい
【第26回】頻脈性不整脈の分類 (1)上室性と心室性
【第27回】頻脈性不整脈の分類 (2)上室性頻脈の種類