コラム

【第8回】心室壁の高速道路と一般道 (刺激伝導系その3 ヒス-プルキンエ線維の伝導)

 

 

みんなの心電図

〜非専門医のための読み方〜

 

第8回 心室壁の高速道路と一般道

(刺激伝導系その3 ヒス-プルキンエ線維の伝導)

 

 

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刺激伝導系の興奮が房室結節を通過した後,
心室(左室と右室)へ興奮を伝えるうえで重要な役割を果たすのが
ヒス-プルキンエ線維です.

 

房室結節から出たヒス束は右室へ伝わる「右脚」

左室へと伝わる「左脚」の2つに分かれます.
左脚はさらに,「左脚前枝」「左脚後枝」の2つに分かれます.
それぞれがさらに分岐したプルキンエ線維が心室壁全体に分布し刺激を伝えます.

 

 

ヒス-プルキンエ線維「高速道路」に例えるとわかりやすいと思います.
皆さんも普段の生活で高速道路に乗る機会があると思いますが,
「高速道路」と「一般道」の違いを深く考えることもないでしょう.
ここではあえて,その差を考えてみましょう.

 

まず「一般道よりも速度が速いこと」
これはその名にもある通りわかりやすいですね.

 

実は「一般道に突然降りることができない」というのも重要な特徴です.
高速道路から一般道に降りるにはIC(インターチェンジ)を介さなければ降りられません.
「IC」は,プルキンエ線維の末端に相当します.

 

心室における「一般道」とは固有心筋細胞のことです.
これらも互いに接着してギャップコネクションを介して,
じわじわとゆっくり電流を伝える能力をもちます
(心房での刺激伝導と同様ですね〔第6回〕).

 

普段は高速道路(ヒス-プルキンエ線維)を介して伝わった電流が
両室の筋肉を同時に興奮させてくれるため,
この一般道を介した伝導はつかわれません

 

 

しかし例えば,右脚ブロックという伝導障害を考えてみましょう.
まず房室結節からヒス-プルキンエ線維の左脚を
瞬時におりた電流は左室の心室固有筋を収縮させます.

 

「では,右脚ブロックでは右室は興奮できないのか?」

というとそんなことはありません.
いったん,高速道路(ヒス-プルキンエ線維)を介して左室に伝わった電流が
じわじわと一般道(心室の固有心筋細胞)を介して右室へと電流を伝えるのです.
(詳細は後に脚ブロックの項で説明します.)

 

 

 

 

今回のまとめ
●ヒス-プルキンエ線維は「高速道路」,固有心筋細胞が「一般道」

 

 

著者:Dr. ヤッシー
内科医.心電図読影へのあくなき探求心をもち,
循環器非専門医でありながら心電図検定1級を取得.
これまでに得た知識・スキルを臨床現場で役立てることはもちろん,
教育・指導にも熱心.若手医師だけでなく,
多職種から勉強会開催の要望を受けるなど,頼られる存在.

 

 

 

→【第9回】心室壁はつっかえないように縮んで,伸びる(QRST波形理解の下準備その1)

 

 

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–「みんなの心電図」目次–

【第1回】連載のコンセプトと自己紹介
【第2回】初学者はなぜ,心電図を苦手と感じているのか?
【第3回】心電図でわかること,わからないこと
【第4回】近づく電気,離れる電気
【第5回】電極のつけ方と基本波形
【第6回】P波はⅡ誘導とV1誘導を見よ (刺激伝導系その1  心房の伝導)
【第7回】心房から心室へは1本道(刺激伝導系その2 房室結節の伝導)
【第8回】心室壁の高速道路と一般道 (刺激伝導系その3 ヒス-プルキンエ線維の伝導)
【第9回】心室壁はつっかえないように縮んで,伸びる(QRST波形理解の下準備その1)
【第10回】パッチクランプ法でみる細胞1粒の活動電位(QRST波形理解の下準備 その2)
【第11回】QRST波形の成り立ち(刺激伝導系その4 心室の興奮と弛緩)
【第12回】QRS波の胸部誘導でのグラデーションを感じよう 【第13回】心電図を確認する眼の動き
【第14回】冠症候群の診断は合わせ技1本
【第15回】心筋梗塞の心電図の成り立ち (1)T波増高
【第16回】心筋梗塞の心電図の成り立ち (2)ST上昇
【第17回】心筋梗塞の心電図の成り立ち (3)異常Q波
【第18回】心筋梗塞の心電図の成り立ち (4)冠性T波
【第19回】心筋梗塞の心電図は出る順番が大切
【第20回】心内膜下虚血の心電図 ST低下
【第21回】ST変化の鏡面像(Mirror image)
【第22回】冠血流域と誘導の対応関係
【第23回】速読式 心拍推定
【第24回】速読式 QT延長推定と基礎疾患
【第25回】頻脈の読影が心電図では最も難しい
【第26回】頻脈性不整脈の分類 (1)上室性と心室性
【第27回】頻脈性不整脈の分類 (2)上室性頻脈の種類

 

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