イヤーノート2025(電子版)
【第12回】QRS波の胸部誘導でのグラデーションを感じよう
みんなの心電図
〜非専門医のための読み方〜
第12回 QRS波の胸部誘導でのグラデーションを感じよう
———————————–
これまでの記事はこちら
———————————–
今回は,6つの胸部誘導(V1~V6)におけるQRS波の形の違いを理解しましょう.
ポイントは,胸部誘導の電極の位置(第5回)と,
(繰り返しになりますが)“近づく電気は上向きに,離れる電気は下向きに”(第4回)です.
心室の興奮はヒス-プルキンエ線維により瞬時に伝導し両室がほぼ同時に収縮します.
しかし厳密には各部位の心筋収縮のタイミングには時差があります.
心室壁を心室中隔,心尖部,自由壁,心基部(心室上方の根元)の4つの部位に分けて,
心筋収縮のタイミングを解説します .
①まず,左脚からでる中隔枝からおりた電流で心室中隔が興奮します.
②次に心尖部が興奮します
③そして,最も大きな起電力がある心室自由壁の興奮がおきます
④最後に心基部へと興奮が抜けます
V1でのQRS波形を考えてみましょう.
まず,心室中隔の興奮を反映してV1電極へ近づく電流を
上向きの波としてキャッチします(r波).
その後,最大の起電力がある心室自由壁の興奮となります.
心室自由壁は左室も右室も興奮が生じるわけですが,
左室の方が起電力として大きく右室の小さい電流は相殺されてみえてしまうため,
V1電極からみて自由壁の逃げていく電流は
深い下向きの波としてキャッチされます(S波).
V6はV1と位置関係が逆なので,波の形もほぼ逆となります.
最初におこる心室中隔の興奮は電極から遠ざかる電流のため
小さい下向きの波としてキャッチします(q波).
その後,最大の起電力である心室自由壁の興奮(左室>>右室)はV6電極に近づくため,
大きい上向きの波としてキャッチされます(R波)
V2-V5にかけては右胸から左胸にかけて,
少しずつ位置をずらして電極を配置しているため,
電流との近づく・離れるといった関係も徐々に変化します.
波として並べた時には,V1の小さいr波はV2,V3…とすすむにつれて
R波が大きくなるようにみえます.
そしてV5-V6付近で R波の高さは最大となります.
こうしたグラデーションがあることが正常な心電図であることの所見なのです.
R波が徐々に伸びるグラデーションの変化を「R波増高」といいます.
いずれ虚血の回で「R波増高不良」という虚血所見を説明する際にまた復習しましょう.
今回のまとめ
●胸部誘導はV1誘導(rS波)からV6誘導(qR波)にかけての R波の増高をグラデーションとして捉える.
著者:Dr. ヤッシー
内科医.心電図読影へのあくなき探求心をもち,
循環器非専門医でありながら心電図検定1級を取得.
これまでに得た知識・スキルを臨床現場で役立てることはもちろん,
教育・指導にも熱心.若手医師だけでなく,
多職種から勉強会開催の要望を受けるなど,頼られる存在.
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
主要疾患が大改訂!Webコンテンツがパワーアップ!
『病気がみえる vol.2 循環器 第5版』発売中
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
–「みんなの心電図」目次–
【第1回】連載のコンセプトと自己紹介
【第2回】初学者はなぜ,心電図を苦手と感じているのか?
【第3回】心電図でわかること,わからないこと
【第4回】近づく電気,離れる電気
【第5回】電極のつけ方と基本波形
【第6回】P波はⅡ誘導とV1誘導を見よ (刺激伝導系その1 心房の伝導)
【第7回】心房から心室へは1本道(刺激伝導系その2 房室結節の伝導)
【第8回】心室壁の高速道路と一般道 (刺激伝導系その3 ヒス-プルキンエ線維の伝導)
【第9回】心室壁はつっかえないように縮んで,伸びる(QRST波形理解の下準備その1)
【第10回】パッチクランプ法でみる細胞1粒の活動電位(QRST波形理解の下準備 その2)
【第11回】QRST波形の成り立ち(刺激伝導系その4 心室の興奮と弛緩)
【第12回】QRS波の胸部誘導でのグラデーションを感じよう
【第13回】心電図を確認する眼の動き
【第14回】冠症候群の診断は合わせ技1本
【第15回】心筋梗塞の心電図の成り立ち (1)T波増高
【第16回】心筋梗塞の心電図の成り立ち (2)ST上昇
【第17回】心筋梗塞の心電図の成り立ち (3)異常Q波
【第18回】心筋梗塞の心電図の成り立ち (4)冠性T波
【第19回】心筋梗塞の心電図は出る順番が大切
【第20回】心内膜下虚血の心電図 ST低下
【第21回】ST変化の鏡面像(Mirror image)
【第22回】冠血流域と誘導の対応関係
【第23回】速読式 心拍推定
【第24回】速読式 QT延長推定と基礎疾患
【第25回】頻脈の読影が心電図では最も難しい
【第26回】頻脈性不整脈の分類 (1)上室性と心室性
【第27回】頻脈性不整脈の分類 (2)上室性頻脈の種類
——————————————————–
本連載の続き・バックナンバーはこちら
——————————————————–