コラム

【第14回】冠症候群の診断は合わせ技1本

 

 

みんなの心電図

〜非専門医のための読み方〜

 

第14回 冠症候群の診断は合わせ技1本

 

 

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心臓には心臓自体を栄養している冠動脈があります.
心臓の虚血は主にこの冠動脈が狭窄,攣縮することで
心臓自身を栄養する血流が低下して起こります.

 

冠動脈の3本の枝
①右冠動脈,②左前下行枝,③左回旋枝

は覚えてください.

 

 

まずは,虚血性心疾患の名称を整理しましょう.

 

急性冠症候群(ACS)は,

急性心筋梗塞(AMI)不安定狭心症(UAP)を包括した概念です.

 

特にAMIではST部分が上昇することが有名な所見で,
ST上昇型心筋梗塞のことをSTEMI(「ステミー」と発音します)

と現場では呼びます.
これに準じて最近はACSでもST上昇型をSTEACSと表現します.

 

わざわざ名前に「上昇型」があれば,ご想像の通り「非上昇」もあり,
non-STEMInon-STEACSと表現します.
これはST低下だけでなく,心電図変化の乏しいACSも包括した概念です.

 

虚血の心電図変化を解説する前にお伝えしたいことは
虚血があること≠心電図変化」であることです.

 

心電図は虚血を診断鑑別するうえで

「必要条件」であります(捉えた虚血性変化は有意に評価して良い)が,
「十分条件」(虚血を心電図正常だけで否定できるほどの検査)ではありません.

 

虚血の発生後にどのようなことが起こるかを見てみましょう.
心筋にはまず酸素不足から嫌気性呼吸の変化が起こります.

 

次に,拡張不全そして収縮不全の順にポンプ機能低下が生じます.
さらに,心電図変化,胸痛が生じます.

 

 

このダイナミックな変化はたった30秒程度で生じるともいわれています.

 

これらの各変化を多角的に捉え,

「ホンモノっぽいか?(心電図変化が,本当に虚血によるものか)」

を総合判断します.

 

具体的には以下のように調べます.

 

●救急外来でACSの是非を急ぎ判断する検査
〈1〉症状の確認 典型的な胸部不快感(胸痛,圧迫感),放散痛
〈2〉心電図の確認 虚血性変化がないか
〈3〉採血 心筋バイオマーカーの上昇(CPK,CPK-MB,Troponin,h-FABP)
〈4〉超音波検査 心臓壁運動の異常

 

●入院や検査予約で行う検査
〈5〉心筋シンチグラフィ
〈6〉冠動脈造影CT
〈7〉冠動脈造影検査(CAG)

 

虚血は「総合判断」であるということがお分かりいただけたでしょうか?
虚血判断における心電図の役割を理解したうえで,
次回から具体的な虚血心電図について説明していきましょう.

 

 

今回のまとめ
●虚血を判断するには心電図検査は必須
●しかし,心電図変化がないからといって
虚血を否定するのはマチガイ(あくまで総合判断である)

 

 

著者:Dr. ヤッシー
内科医.心電図読影へのあくなき探求心をもち,
循環器非専門医でありながら心電図検定1級を取得.
これまでに得た知識・スキルを臨床現場で役立てることはもちろん,
教育・指導にも熱心.若手医師だけでなく,
多職種から勉強会開催の要望を受けるなど,頼られる存在.

 

 

→【第15回】心筋梗塞の心電図の成り立ち (1)T波増高

 

 

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–「みんなの心電図」目次–

【第1回】連載のコンセプトと自己紹介
【第2回】初学者はなぜ,心電図を苦手と感じているのか?
【第3回】心電図でわかること,わからないこと
【第4回】近づく電気,離れる電気
【第5回】電極のつけ方と基本波形
【第6回】P波はⅡ誘導とV1誘導を見よ (刺激伝導系その1  心房の伝導)
【第7回】心房から心室へは1本道(刺激伝導系その2 房室結節の伝導)
【第8回】心室壁の高速道路と一般道 (刺激伝導系その3 ヒス-プルキンエ線維の伝導)
【第9回】心室壁はつっかえないように縮んで,伸びる(QRST波形理解の下準備その1)
【第10回】パッチクランプ法でみる細胞1粒の活動電位(QRST波形理解の下準備 その2)
【第11回】QRST波形の成り立ち(刺激伝導系その4 心室の興奮と弛緩)
【第12回】QRS波の胸部誘導でのグラデーションを感じよう
【第13回】心電図を確認する眼の動き
【第14回】冠症候群の診断は合わせ技1本
【第15回】心筋梗塞の心電図の成り立ち (1)T波増高
【第16回】心筋梗塞の心電図の成り立ち (2)ST上昇
【第17回】心筋梗塞の心電図の成り立ち (3)異常Q波
【第18回】心筋梗塞の心電図の成り立ち (4)冠性T波
【第19回】心筋梗塞の心電図は出る順番が大切
【第20回】心内膜下虚血の心電図 ST低下
【第21回】ST変化の鏡面像(Mirror image)
【第22回】冠血流域と誘導の対応関係
【第23回】速読式 心拍推定
【第24回】速読式 QT延長推定と基礎疾患
【第25回】頻脈の読影が心電図では最も難しい
【第26回】頻脈性不整脈の分類 (1)上室性と心室性
【第27回】頻脈性不整脈の分類 (2)上室性頻脈の種類

 

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