病気がみえるシリーズ
【第21回】ST変化の鏡面像(Mirror image)
- この記事では,以下の事項について解説しています.
- 鏡面像とはなにか
- ST上昇・ST下降の鑑別
みんなの心電図
〜非専門医のための読み方〜
第21回 ST変化の鏡面像(Mirror image)
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これまでの記事はこちら
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第16回の記事,「心筋梗塞の心電図の成り立ち(2)ST上昇」で,
貫壁性の心筋梗塞では,収縮期に電極に近づく電気が流れるため,
ST上昇が起こると説明しました.
お気づきの人も多いかもしれませんが,これらの原則は,
虚血部位と電極の位置関係で変わってきます.
今回はこの点に踏み込んで解説します.
キーワードは「鏡面像」です.
貫壁性虚血では虚血部に近接した誘導でSTが上昇しますが,
実は対側変化として逆の位置にある誘導のSTが低下します.
鏡に映したようなので「鏡面像」と呼びます.
(第4回で,同じ電流でも見る方向が変われば
記録される心電図の上下がいれかわることを説明しましたね.)
この「鏡面像」の関係を発見することが
「貫壁性虚血」が起こっていることの証明になります.
このことをふまえて,「ST上昇」をみた場合と,
「ST下降」をみた場合にどうアプローチするかを示しましょう.
ST上昇をみた場合は鏡面像を探します.
鏡面像がある,すなわち,
ST上昇を認める誘導の
反対側の誘導でST低下を認めれば,
貫壁性虚血であると確定します.
鏡面像がないST上昇,すなわち,
反対側の誘導でST低下がなかったり,
全ての誘導でST上昇がみられるような場合は
虚血以外の可能性も考慮する必要があります(心筋炎など).
ST低下をみた場合も,まずは,
ST上昇の鏡面像を見ている可能性を考えます.
鏡面像であればやはり貫壁性虚血であると確定します.
鏡面像がなければ,内膜下虚血の可能性を考えます.
なお,今回の知識を活かすためには,
「ある誘導の反対側の誘導とはどれか」を
知っている必要がありますので,
次回“冠血流域と誘導の対応関係”で解説します.
著者:Dr. ヤッシー
内科医.心電図読影へのあくなき探求心をもち,
循環器非専門医でありながら心電図検定1級を取得.
これまでに得た知識・スキルを臨床現場で役立てることはもちろん,
教育・指導にも熱心.若手医師だけでなく,
多職種から勉強会開催の要望を受けるなど,頼られる存在.
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–「みんなの心電図」目次–
【第1回】連載のコンセプトと自己紹介
【第2回】初学者はなぜ,心電図を苦手と感じているのか?
【第3回】心電図でわかること,わからないこと
【第4回】近づく電気,離れる電気
【第5回】電極のつけ方と基本波形
【第6回】P波はⅡ誘導とV1誘導を見よ (刺激伝導系その1 心房の伝導)
【第7回】心房から心室へは1本道(刺激伝導系その2 房室結節の伝導)
【第8回】心室壁の高速道路と一般道 (刺激伝導系その3 ヒス-プルキンエ線維の伝導)
【第9回】心室壁はつっかえないように縮んで,伸びる(QRST波形理解の下準備その1)
【第10回】パッチクランプ法でみる細胞1粒の活動電位(QRST波形理解の下準備 その2)
【第11回】QRST波形の成り立ち(刺激伝導系その4 心室の興奮と弛緩)
【第12回】QRS波の胸部誘導でのグラデーションを感じよう
【第13回】心電図を確認する眼の動き
【第14回】冠症候群の診断は合わせ技1本
【第15回】心筋梗塞の心電図の成り立ち (1)T波増高
【第16回】心筋梗塞の心電図の成り立ち (2)ST上昇
【第17回】心筋梗塞の心電図の成り立ち (3)異常Q波
【第18回】心筋梗塞の心電図の成り立ち (4)冠性T波
【第19回】心筋梗塞の心電図は出る順番が大切
【第20回】心内膜下虚血の心電図 ST低下
【第21回】ST変化の鏡面像(Mirror image)
【第22回】冠血流域と誘導の対応関係
【第23回】速読式 心拍推定
【第24回】速読式 QT延長推定と基礎疾患
【第25回】頻脈の読影が心電図では最も難しい
【第26回】頻脈性不整脈の分類 (1)上室性と心室性
【第27回】頻脈性不整脈の分類 (2)上室性頻脈の種類
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