コラム

【第24回】速読式 QT延長推定と基礎疾患

 

 

みんなの心電図

〜非専門医のための読み方〜

 

第24回 速読式 QT延長推定と基礎疾患

 

 

———————————–

これまでの記事はこちら

———————————–

 

Q波は心室の収縮の始まり(脱分極),
T波は心室の拡張(再分極)を反映しています(第11回).

Q波の開始から,T波の終わりまでの時間QT間隔とよび,
様々な原因で延長したり短縮したりします

 

QT間隔は頻拍時には短く,徐脈時には長くなります.
したがってQT延長はその絶対値よりも
RR間隔(心拍数を反映)に対して
どのくらい延びているかという割合が重要で,
Bazzett’s Fomulaの補正式を使用して
QTc値が算出されます(“c” = correct補正です).

 

この式には,ルートが入っていたりして
暗算でQTc値を求めるのは至難のわざです.
速読式には,RR間隔の半分をT波の終点が超えなければ
QT延長はないとされます.
(実際には,ほとんどの心電図にQTc値の自動計算機能があるので,
比較的正確に数値で表示され非常に参考になります.)

 

 

 

 

QT間隔が延長する原因を大別すると

 

(1)薬剤性
(2)電解質異常(低K,低Caなど)
(3)先天性QT延長症候群
(4)心筋にダメージがあるような基礎疾患(陳旧性心筋梗塞など)

 

があります.

 

救急外来でQT延長に出会った際にはまずは頻度が高く,
治療方法の選択も大きく変わる病態として
(1)薬剤性 と (2)電解質異常 を診断・除外する努力をしましょう.

 

 

先天性にQTが延長している「先天性QT延長症候群」という疾患があります.
その成因は
(1)内向き電流であるINa,ICaLチャネルチャネル亢進

(2)外向き電流であるIKs,IKrチャネルの減弱
が代表的です.

 

原因遺伝子は15種類以上が報告されていますが,
表現型はLQT1~3型が全体の9割を占めます.
LQT1~3型はST-T部分の形状に差があるといわれます.
LQT1型は幅の広いT波,
LQT2型はノッチがありピークが2つあるなど異常な形状のT波,
LQT3型はST部分が平坦な割にT波の先端が目立つ
といった特徴があります.

 

心室の再分極異常があるこの疾患は
Torsades de pointesとよばれる致死的不整脈を生じやすく
ときに予防目的での抗不整脈薬が必要です.
QT延長症候群は循環器内科の中でも
不整脈専門家が得意とされる分野です.
先天性QT延長症候群を疑った時には

決して分類や治療介入をしようとは試みずに
素直に専門家にコンサルトしましょう

 

心電図読影の話からは少しそれますが,
先天性QT延長症候群でなぜ難聴が出るのかを解説します.
電気生理学的知識が,心電図だけでなく,
疾患の症状を理解するうえでも役立つ良い例でしょう.

 

先天性QT延長症候群(cLQTS : “c”=congenital)は
後天性QT延長症候群(aLQTS : “a”=acquired)に比べると
頻度はとても低い疾患です.
1900年代中盤に難聴を合併するQT延長症候群として
Jervell-Lange-Nielsen症候群が報告されました.
後にcLQTSが古典的な病型分類から
疾患特異的遺伝子発現により分類されていく中で,
これは遺伝子分類でのLQTS1型と同じくKCNQ1,
またLQTS5型と同じKCNE1の遺伝子変異をもっていることが判明しました
(カリウムチャネルであるIKsチャネルの遺伝子です).

 

内耳の有毛細胞の表面には鼓膜の振動に応じて開く
機械刺激作動性チャネルが存在し,
この脱分極刺激が聴神経を介して音として感じられます.
この脱分極を支えているのは

内リンパが常に高Kの勾配に保たれている環境が重要です.

 

さて,この内リンパの高Kを保持する機構の一端を担っているのは
KCNQ1 / KCNE1複合体といわれます.
この遺伝子はLQTSの原因遺伝子でしたよね.
したがって,一見関係ないような耳と心臓ですが
単一遺伝子異常によって双方のチャネル機構異常が生じることで
内耳障害とQT延長が合併すると最近になってわかってきたのです.

 

 

 

今回のまとめ
●T波の終点がRR間隔の半分を越えていたらQT延長を疑う
●QTcは機械計測値が参考になる
●QT延長を発見したらまずは(1)薬剤性,(2)電解質異常の除外
●先天性QT延長症候群を疑った時には専門家にコンサルトする

 

 

 

著者:Dr. ヤッシー
内科医.心電図読影へのあくなき探求心をもち,
循環器非専門医でありながら心電図検定1級を取得.
これまでに得た知識・スキルを臨床現場で役立てることはもちろん,
教育・指導にも熱心.若手医師だけでなく,
多職種から勉強会開催の要望を受けるなど,頼られる存在.

 

 

→【第25回】頻脈の読影が心電図では最も難しい

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

主要疾患が大改訂!Webコンテンツがパワーアップ!
『病気がみえる vol.2 循環器 第5版』発売中
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

–「みんなの心電図」目次–

【第1回】連載のコンセプトと自己紹介
【第2回】初学者はなぜ,心電図を苦手と感じているのか?
【第3回】心電図でわかること,わからないこと
【第4回】近づく電気,離れる電気
【第5回】電極のつけ方と基本波形
【第6回】P波はⅡ誘導とV1誘導を見よ (刺激伝導系その1  心房の伝導)
【第7回】心房から心室へは1本道(刺激伝導系その2 房室結節の伝導)
【第8回】心室壁の高速道路と一般道 (刺激伝導系その3 ヒス-プルキンエ線維の伝導)
【第9回】心室壁はつっかえないように縮んで,伸びる(QRST波形理解の下準備その1)
【第10回】パッチクランプ法でみる細胞1粒の活動電位(QRST波形理解の下準備 その2)
【第11回】QRST波形の成り立ち(刺激伝導系その4 心室の興奮と弛緩)
【第12回】QRS波の胸部誘導でのグラデーションを感じよう
【第13回】心電図を確認する眼の動き
【第14回】冠症候群の診断は合わせ技1本
【第15回】心筋梗塞の心電図の成り立ち (1)T波増高
【第16回】心筋梗塞の心電図の成り立ち (2)ST上昇
【第17回】心筋梗塞の心電図の成り立ち (3)異常Q波
【第18回】心筋梗塞の心電図の成り立ち (4)冠性T波
【第19回】心筋梗塞の心電図は出る順番が大切
【第20回】心内膜下虚血の心電図 ST低下
【第21回】ST変化の鏡面像(Mirror image)
【第22回】冠血流域と誘導の対応関係
【第23回】速読式 心拍推定
【第24回】速読式 QT延長推定と基礎疾患
【第25回】頻脈の読影が心電図では最も難しい
【第26回】頻脈性不整脈の分類 (1)上室性と心室性
【第27回】頻脈性不整脈の分類 (2)上室性頻脈の種類

 

——————————————————–

本連載の続き・バックナンバーはこちら

——————————————————–

新着記事カテゴリー


 すべて

 国試

 CBT・OSCE

 動画・アプリ

 実習・マッチング

 研修医・医師

 コラム

 その他